数値解析 第12回 (6) ヤコビ法の収束性
反復行列
Def.12 A の対角部分を
D=(a11a2200⋱ann)
とし、
H=(hij)=−D−1(A−D)
とおく。H をヤコビ法の「反復行列」と呼ぶ。
ちょっと見、複雑そうですが、
hij={−(aijaii)if i≠j0otherwise
です。なぜ反復行列と呼ぶかと言うと、
Th.13 ヤコビ法の k ステップ目の誤差ベクトルを
e(k)=x(k)− ( 真の x )
と置くと
e(k+1)=He(k).
従って
e(k)=Hke(0).
証明 ヤコビ法のアイデア は、
D を用いて
Dx(k+1)=b−(A−D)x(k)
と書くことができます。真の解
x は
Dx=b−(A−D)x
を満たすので、辺々引くと
D(x(k+1)−x)=−(A−D)(x(k)−x)
∴De(k+1)=−(A−D)e(k)
∴e(k+1)=−D−1(A−D)e(k)=He(k). (証明終)
ヤコビ法が収束する十分条件
Th.14 A=(aij) が次の条件を満たせばヤコビ法は必ず収束する:
∀i について
∑j≠i|aij|<|aii| ⋯⋯ (♯)
予想 5 のとおり、対角成分
aii の絶対値が「同じ行の他の成分の絶対値の和」より大きければ
ヤコビ法は収束する、という定理です。
Ex. A=(51227−31−14) のとき
- i=1 : |1|+|2|=3<|5|
- i=2 : |2|+|−3|=5<|7|
- i=3 : |1|+|−1|=2<|4|
となって
(♯) が成り立ちますのでヤコビ法は収束します。
証明
||H||∞Th.9=max1≦i≦n(n∑j=1|hij|)Def.12=max1≦i≦n(1|aii|∑j≠i|aij|) (♯)< 1.
すると
Th.10 (2),
Th.13 より
|e(k)|∞=|Hke(0)|∞≦(||H||∞)k|e(0)|⟶0(k→∞)
よって
Cor.11 より
e(k)⟶o(k→∞)
∴
x(k)⟶x(k→∞)
(証明終)
誤差ベクトル
e(k) がある意味 "公比
H の 等比数列" であり、
条件
(♯) より
H のノルムが 1 未満なので、
Th.10 (2),
Cor.11 より誤差ベクトルはゼロベクトルに収束する、という仕組みです。
注と例
Rem.15 (♯) が成り立てばガウス・ザイデル法も収束する。
証明は下記のプリント pp.4-5 を見てください。
Rem.16 (♯) はあくまで十分条件であって、
(♯) が成り立たなくてヤコビ法やガウス・ザイデル法が収束することも少なくありません。