数値解析 第13回 (3) 正方行列の対角化
正方行列の対角化
Th.7 若干の例外を除いて、$n$ 次正方行列 $A$ は $n$ 組の固有値・固有ベクトル
$(\lambda_j, \vvv_j)$ ( $j=1,2,\cdots,n$ )
を持ち、
$\dps{P=\mat{c}{ \\ \vvv_1 & \!\!\!\cdots\!\!\! & \vvv_n \\ \\}}$
とおくと、
$\dps{A=P\mat{rcl}{\lambda_1 && \\[-0.5em] & \!\!\!\ddots\!\!\! & \\[-0.5em] && \lambda_n}P^{-1}}$,
$\dps{P^{-1}AP=\mat{rcl}{\lambda_1 && \\[-0.5em] & \!\!\!\ddots\!\!\! & \\[-0.5em] && \lambda_n}}$
が成り立つ。( $A$ は $P$ によって対角化される、と言う。)
\begin{align}
\because\quad AP
=\mat{ccc}{\\ A\vvv_1 & \!\!\!\cdots\!\!\! & A\vvv_n \\ \\}
&=\mat{ccc}{\\ \lambda_1 \vvv_1 & \!\!\!\cdots\!\!\! & \lambda_n \vvv_n \\ \\} \\
&=\mat{ccc}{\\ \vvv_1 & \!\!\!\cdots\!\!\! & \vvv_n \\ \\}
\mat{rcl}{\lambda_1 && \\[-0.5em] & \!\!\!\ddots\!\!\! & \\[-0.5em] && \lambda_n}
=P
\mat{rcl}{\lambda_1 && \\[-0.5em] & \!\!\!\ddots\!\!\! & \\[-0.5em] && \lambda_n}.
\end{align}
若干の例外
例外は固有値がダブっているときにのみ生じる可能性があり、
その場合でも、適切な行列 $P$ を用いると、$P^{-1}AP$ が「ジョルダンの標準形」という対角行列に近い形の行列に変形できます。
$\dps{\mat{cc}{1 & 1 \\ 0 & 1}}$
などは対角化できない行列の例です。
固有値がダブっていても必ずしも対角化できない訳ではありません。、たとえば対角行列はそのまま対角化できています。
Th.8 次の条件はいずれも、$n$ 次正方行列 $A$ が対角化可能であるための十分条件である:
- $A$ は $n$ 個の異なる固有値を持つ
- $A$ は実対称行列である
対角化の利点
ネズミの絵の例の一般化として
Cor.9 Th.7 のとき、$A$ 倍写像による一次変換 $\xxx \mapsto A\xxx$ は
各 $\vvv_j$ 方向へ $\lambda_j$ 倍する写像
と解釈できる。
簡単でいいですよね。
Cor.10 Th.7 のとき、$A$ のべき乗は簡単に
$\dps{A^k=P\mat{rcl}{\lambda_1^k && \\[-0.5em] & \!\!\!\ddots\!\!\! & \\[-0.5em] && \lambda_n^k}P^{-1}}$
で計算できる。
\begin{align}
\require{cancel}
\because\quad A^{k+1}=A^k\,A
&=P\mat{rcl}{\lambda_1^k && \\[-0.5em] & \!\!\!\ddots\!\!\! & \\[-0.5em] && \lambda_n^k}
\cancel{P^{-1}P}\mat{rcl}{\lambda_1 && \\[-0.5em] & \!\!\!\ddots\!\!\! & \\[-0.5em] && \lambda_n}P^{-1} \\[0.5em]
&=P\mat{rcl}{\lambda_1^{k+1} && \\[-0.5em] & \!\!\!\ddots\!\!\! & \\[-0.5em] && \lambda_n^{k+1}}P^{-1} \\
\end{align}
Cor.11 Th.7 のとき、$A$ の全ての固有値の絶対値 $|\,\lambda_j\,|$ が 1 より小さければ
$\dps{\lim_{k \rightarrow \infty} A^k=O.}$
$\dps{\because\quad
\lim_{k \rightarrow \infty}A^k
=P\lim_{k \rightarrow \infty}\mat{rcl}{\lambda_1^k && \\[-0.5em] & \!\!\!\ddots\!\!\! & \\[-0.5em] && \lambda_n^k}P^{-1}
=POP^{-1}=O.
}$