応用数学 第8回 (4) ルジャンドル多項式 $P_N(x)$ たちの直交性

関数の内積

 以前、関数はベクトルと思え、という話をしました。 ベクトルには内積というものがありました。 そこで
Def.7 区間 $[-1,1]$ 上の滑らかな関数 $f(x)$, $g(x)$ に対し、 $\newcommand{\ip}[2]{\langle#1,\, #2\rangle}$
$\dps{\ip{f}{g}=\int_{-1}^{1}f(x)g(x)\,dx}$
と定めると、これは内積になる。
 内積になる、とは次の4つの性質を持つ、ということです。
  • 双線形性:
    • $\ip{f+g}{h}=\ip{f}{h}+\ip{g}{h}$
    • $\ip{f}{g+h}=\ip{f}{g}+\ip{f}{h}$
    • $\ip{cf}{g}=\ip{f}{cg}=c\ip{f}{g}$
  • 正値性: $\dps{\ip{f}{f} \geqq 0}$
  • 非退化: $\ip{f}{f}=0$ ならば $f(x)=0$
  • 対称性: $\ip{f}{g}=\ip{g}{f}$
 内積が定義できればベクトルの長さや角度を測ることができ、 内積に関する色々な公式・定理がこの関数の内積でも使えます。

$P_N(x)$ たちの直交性

 ルジャンドル多項式の著しい性質は
Th.8 $P_N(x)$ たちはこの内積に関して互いに直交している:
$N \neq M$   $\Rightarrow$   $\ip{P_N}{P_M}=0$
※ この直交性が「ガウスの積分公式」の精度の良さの根拠になります。 詳しくは「数値解析」の授業をお楽しみに。
Lemma.9 $f(x)$ を与えられた関数とし、パラメータ $\lambda$ を含んだ微分方程式 \begin{equation} (fy')'+\lambda y = 0 \tag{$\star_\lambda$} \end{equation} を考える。2つの異なるパラメータ $\lambda$, $\mu$ ( $\lambda \neq \mu$ ) について
  • $y$ は $(\star_\lambda)$ の解
  • $z$ は $(\star_\mu)$ の解
であれば \begin{equation} \dps{\int_a^b yz \,dx = \frac{1}{\mu - \lambda}\left[f(y'z-yz')\right]_a^b} \end{equation}
証明  \begin{align} \left\{f(y'z-yz')\right\}' & = f'(y'z-yz') + f(y''z + y'z' - y'z' - y z'') \\ & = (f'y' + fy'')z - (f'z' + f z'')y \\ & = (fy')'z-(fz')'y \\ & = (-\lambda y)z - (-\mu z)y = (\mu - \lambda)yz \\ \end{align} ゆえ。(証明終)

Th.8 の証明 L'a 9 で $f=1-x^2$ とすると
$(fy')' = fy'' + f'y' = (1-x^2)y'' -2xy'$
ゆえ、
$\lambda=N(N+1)$
のときの $(\star_\lambda)$ がルジャンドルの微分方程式となります。従って
  • $\lambda=N(N+1)$ のときの $(\star_\lambda)$ の解が $y=P_N(x)$
  • $\mu=M(M+1)$ のときの $(\star_\mu)$ の解が $z=P_M(x)$
で、
$\ip{P_N}{P_M} = \int_{-1}^1 yz\,dx = \dps{\frac{1}{\mu - \lambda}\Big[(1-x^2)(y'z-yz')\Big]_{-1}^1} = 0 $
(証明終)