応用数学 第3回 (2) ロンスキー行列式 ( = ロンスキアン )

定義と例

 「ロンスキー行列式」という道具を導入します。
Def.2 関数 $y_1$, $y_2$, $\cdots$, $y_n$ のロンスキー行列式とは、
$W(y_1, y_2, \cdots, y_n)= \left| \begin{array}{cccc} y_1 & y_2 & \cdots & y_n \\ y_1' & y_2' & \cdots & y_n' \\ y_1'' & y_2'' & \cdots & y_n'' \\ \vdots & \vdots & & \vdots \\ y_1^{(n-1)} & y_2^{(n-1)} & \cdots & y_n^{(n-1)} \\ \end{array} \right| $
 関数を成分とする行列の行列式ですから、これは関数になります。
Ex.3 (1) $y_1=e^{\alpha x}$, $y_2=e^{\beta x}$ のとき
$W(y_1, y_2) =\left| \begin{array}{cc} e^{\alpha x} & e^{\beta x} \\ (e^{\alpha x})' & (e^{\beta x})' \\ \end{array} \right| =\left| \begin{array}{cc} e^{\alpha x} & e^{\beta x} \\ \alpha e^{\alpha x} & \beta e^{\beta x} \\ \end{array} \right| =(\beta-\alpha)e^{(\alpha+\beta)x} $
(2) $y_1=\cos x$, $y_2=\sin x$ のとき
$W(y_1, y_2) =\left| \begin{array}{cc} \cos x & \sin x \\ (\cos x)' & (\sin x)' \\ \end{array} \right| =\left| \begin{array}{cc} \cos x & \sin x \\ -\sin x & \cos x \\ \end{array} \right| =1 $

ロンスキー行列式と一次独立性・一次従属性

Th.4 $y_1$, $y_2$, $\cdots$, $y_n$ を区間 $I$ 上の関数とする。
  1. ある $x_0 \in I$ で
    $W(y_1, y_2, \cdots, y_n)(x_0) \neq 0$
    ならば $y_1$, $y_2$, $\cdots$, $y_n$ は一次独立である。
  2. $y_1$, $y_2$, $\cdots$, $y_n$ が一次従属ならば $I$ 上で恒等的に
    $W(y_1, y_2, \cdots, y_n)(x_0) = 0$
    が成り立つ。
証明 (1) $c_1\,y_1+c_2\,y_2+\cdots+c_n\,y_n=0$ を仮定しましょう。この式を微分してゆくと
$c_1\,y_1'+c_2\,y_2'+\cdots+c_n\,y_n'=0$
$c_1\,y_1''+c_2\,y_2''+\cdots+c_n\,y_n''=0$
$\vdots$
$c_1\,y_1^{(n-1)}+c_2\,y_2^{(n-1)}+\cdots+c_n\,y_n^{(n-1)}=0$
が得られます。これらの式を行列でまとめて書くと
$\dps{ \left( \begin{array}{cccc} y_1 & y_2 & \cdots & y_n \\ y_1' & y_2' & \cdots & y_n' \\ y_1'' & y_2'' & \cdots & y_n'' \\ \vdots & \vdots & & \vdots \\ y_1^{(n-1)} & y_2^{(n-1)} & \cdots & y_n^{(n-1)} \\ \end{array} \right) \left( \begin{array}{c} c_1 \\ c_2 \\ c_3 \\ \vdots \\ c_n \\ \end{array} \right) = \left( \begin{array}{c} 0 \\ 0 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \\ \end{array} \right)}$
となり、この左の行列を $Y=Y(x)$ とおくと、
$|\,Y(x_0)\,|=W(y_1, y_2, \cdots, y_n)(x_0) \neq 0$
従って $Y(x_0)^{-1}$ が存在するので
$\dps{ \left( \begin{array}{c} c_1 \\ c_2 \\ c_3 \\ \vdots \\ c_n \\ \end{array} \right) = Y(x_0)^{-1} \left( \begin{array}{c} 0 \\ 0 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \\ \end{array} \right) = \left( \begin{array}{c} 0 \\ 0 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \\ \end{array} \right) }$.
$c_1=c_2=\cdots=c_n=0$ が導かれました。
 (2) は (1) の対偶です。(証明終)

ロンスキー行列式の使いどころ

 線形微分方程式の解法ではたくさんの一次独立な解をみつけることが必要になりますので、この Th.4 が役に立ちます。 また、行列式が逆行列の公式の分母に出て来ることから、来週には解の公式にも用います。