数値解析 第2回 (4) テイラー展開の使いどころ
基本的な関数のテイラー展開
まずは基本的な関数のテイラー展開を頭に入れておきましょう。
問 次の関数の $x=0$ におけるテイラー展開(べき級数展開)を答えよ。
$e^x$,
$\cos x$,
$\sin x$,
$\log(1+x)$,
$\dps{\frac{1}{1-x}}$,
$\dps{\frac{1}{1+x}}$
答えはここ
\begin{align}
e^x &= 1 + \frac{x}{1!} + \frac{x^2}{2!} + \frac{x^3}{3!} + \cdots \\
\cos x &= 1 - \frac{x^2}{2!} + \frac{x^4}{4!} - \cdots \\
\sin x &= \frac{x}{1!} - \frac{x^3}{3!} + \frac{x^5}{5!} + \cdots \\
\log(1+x) &= \frac{x}{1} - \frac{x^2}{2} + \frac{x^3}{3} - \frac{x^4}{4} + \cdots \\
\frac{1}{1-x} &= 1 + x + x^2 + x^3 + x^4 + \cdots \\
\frac{1}{1+x} &= 1 - x + x^2 - x^3 + x^4 - \cdots \\
\end{align}
$e^x$, $\cos x$, $\sin x$ の展開式は全ての $x$ について正しく、
$\log(1+x)$, $\dps{\frac{1}{1 \pm x}}$ の展開式は $|\,x\,| \lt 1$ の範囲で成り立ちます。
※ ここに挙げた6つくらいは暗記してすらすらと言えるようになりましょう。
それでは、テイラー展開の使い方をいくつか紹介してゆきます。
1. 近似値計算
例えば $\sin(1)$ の近似値が知りたいとしましょう。
$\sin x$ のべき級数展開を $x^5$ で打ち切れば
$\dps{\sin x \mbox{ ≒ } \frac{x}{1!} - \frac{x^3}{6} + \frac{x^5}{120} }$
です。これより
$\dps{\sin(1) \mbox{ ≒ } \frac{1}{1!} - \frac{1}{6} + \frac{1}{120} } = \frac{120 - 20 +1}{120} = \frac{101}{120} = 0.841666666\cdots$
となって、分数の計算で近似値を求められます。本当の値は
$\sin(1) = 0.841470984\cdots$
ですから結構いい値が出ています。
2. 微分方程式の級数解法
例えば微分方程式
$y'(x)=y(x)^2$, $y(0)=1$
の、こんな解法があります:
解 $y=y(x)$ が $x=0$ の付近でべき級数展開できて
$y(x)=c_0 + c_1x + c_2x^2 + c_3x^3 + \cdots$
と書けるとします。
両辺を微分すると
$y'(x)=c_1 + 2c_2x + 3c_3x^2 + 4c_4x^3 + \cdots$
また、$c_0=y(0)=1$ ですから $y(x)^2$ の展開式は
$y(x)^2=1 + 2c_1x + (c_1^2+2c_2)x^2 + (2c_1c_2+2c_3)x^3 + \cdots$
です。この2つの式を係数比較して
\begin{align}
& c_1=1 \\
\mbox{∴}\quad & 2c_2 = 2c_1 = 2 \\
\mbox{∴}\quad & c_2 = 1 \\
\mbox{∴}\quad & 3c_3 = c_1^2+2c_2 = 1 + 2\times 1= 3 \\
\mbox{∴}\quad & c_3 = 1 \\
\mbox{∴}\quad & 4c_4 = 2c_1c_2+2c_3 = 2\times 1\times 1 + 2\times 1= 4 \\
\mbox{∴}\quad & c_4 = 1 \\
\end{align}
どうやら $\forall \,n$ で $c_n = 1$ らしく、
$\dps{y(x)=1 + x + x^2 + x^3 + \cdots = \frac{1}{1-x}}$
のようです。検算してみると
$\dps{\left(\frac{1}{1-x}\right)'=-(-1)(1-x)^{-2}=\left(\frac{1}{1-x}\right)^2}$,
$\dps{\frac{1}{1-0}=1}$
ご明算です。
3. 新しい公式の導出
オイラー先生は $e^x$ の展開式に大胆にも虚数 $x=i\theta$ を代入してみました( $i=\sqrt{-1}$ は虚数単位 )。
\begin{align}
e^{i\theta} & = 1 + \frac{i\theta}{1!} + \frac{(i\theta)^2}{2!} + \frac{(i\theta)^3}{3!} + \frac{(i\theta)^4}{4!} + \cdots \\
& = 1 + i\frac{\theta}{1!} - \frac{\theta^2}{2!} - i \frac{\theta^3}{3!} + \frac{\theta^4}{4!} + \cdots \\
\end{align}
右辺を実部と虚部に分けると
$\dps{e^{i\theta} = \left(1- \frac{\theta^2}{2!} + \frac{\theta^4}{4!} + \cdots \right)
+ i \left(\frac{\theta}{1!} - \frac{\theta^3}{3!} + \cdots \right)}$
となりますが、よく見ると実部は $\cos\theta$ の展開式、虚部は $\sin\theta$ の展開式です。
厳密な証明には複素関数論や収束性の議論が必要ですが、
美しい公式が見つかりました:
オイラーの公式 $e^{i\theta}= \cos\theta + i \sin\theta$.
そしてここに $\theta=\pi$ を代入して得られるのが
オイラーの等式 $e^{i\pi}= -1$.
円周率 $\pi$ と虚数単位 $i$ とネイピア数 $e$ が見事に調和しています。
(小川洋子さんの小説原作の映画
「博士の愛した数式」でも取り上げられている等式です。)
※ 三角関数の加法定理はオイラーの公式を使えばあっさりとできてしまいます:
\begin{align}
\cos(\alpha&+\beta) + i \sin(\alpha+\beta) \\
&= e^{i(\alpha+\beta)} \\
&= e^{i\alpha} \times e^{i\beta} \\
&= ( \cos\alpha + i \sin\alpha) \times (\cos\beta + i \sin\beta) \\
&= ( \cos\alpha\cos\beta - \sin\alpha\sin\beta) + i (\cos\alpha\sin\beta + \sin\alpha\cos\beta) \\
\end{align}
実部が $\cos$ の、虚部が $\sin$ の加法定理です。
4. 数値解析では
そして数値解析では
- 非線形方程式の数値解法
- 数値積分
- 微分方程式の数値解法
などの、アルゴリズムの原理や、誤差解析で登場します。