数値解析 第6回 (5) 関数の内積
関数もベクトルである
次回勉強する「ガウスの積分公式」の準備として、
関数を「ベクトル」として捉え、「内積」を導入します。
「ベクトル」には「矢印」や「長さと方向を持つもの」といったイメージがありますが、
その本質は
の
たった2つだけです。
(「スカラー倍」は、初学者はとりあえず「実数倍」のことだと思っていていいです)
線形代数ではベクトル空間 ( = 線形空間 ) の公理というのが出てきて何やらややこしそうですが、
このシンプルな約束事を押さえておいてください。
ベクトルが重宝される理由は
- シンプルな約束事なので色んなものが実はベクトルとして扱えること
- シンプルな約束事なのにたくさんの定理が導かれること
- その色んなものにたくさんの定理を適用できること
です。
さて、関数も、足せて、実数倍ができます:
ということは関数もベクトルと考えることができる訳です。
関数の内積
ベクトルの内積
⟨ , ⟩ とは、ベクトルのなす角度や、大きさをはかるための道具でした:
- |v|=⟨v,v⟩
- cosθ=⟨v,w⟩|v||w|
- v⊥w ⇔ ⟨v,w⟩=0
関数に内積が定義できれば、
関数の大きさや角度を定量的に議論できることになります。
Th.1 区間 [−1,1] 上の滑らかな関数 f(x), g(x) に対し
⟨f,g⟩=∫1−1f(x)g(x)dx
と定めると ⟨ , ⟩ は内積になる。
証明 実ベクトル空間の内積の条件は、双線形性、正値性(非退化も含む)、対称性です。
双線形性 とは
- ⟨f,g+h⟩=⟨f,g⟩+⟨f,h⟩
- ⟨f+g,h⟩=⟨f,h⟩+⟨g,h⟩
- ⟨cf,g⟩=⟨f,cg⟩=c⟨f,g⟩
が成り立つことですが、これは積分の双線形性から従います。
正値性 は
⟨f,f⟩=∫1−1f(x)2dx≧0 より。
非退化 ⟨f,f⟩=0 であれば関数として
f(x)2=0 すなわち
f(x)=0 となります。
対称性 ⟨f,g⟩=⟨g,f⟩ は定義から直ちに従います。(証明終)
Cor.2 内積に関する色々な定理はこの関数の内積でも成り立つ。
たとえば
Prop.3 ( シュバルツの不等式 )
(∫1−1fgdx)2≦(∫1−1f2dx)(∫1−1g2dx)
は、2 次元数ベクトルの標準内積の
(ax+by)2≦(a2+b2)(x2+y2)
と同じく
⟨v,w⟩2≦⟨v,v⟩⟨w,w⟩ ⋯⋯ (∗)
を書き下したものです。
(∗) の証明
内積の正値性、双一次性、対称性から、任意の実数
t について
0≦⟨tv+w,tv+w⟩=t2⟨v,v⟩+2t⟨v,w⟩+⟨w,w⟩
が成り立ちます。判別式を取れば
⟨v,w⟩2−⟨v,v⟩⟨w,w⟩≦0
(証明終)