組合せとグラフの理論(塩田) 2020年度 第1回

 今日はこの授業でどんなことをやるのか、というお話です。

はじめに

  1. 「組合せとグラフの理論」という講義名ですが、グラフ理論を主にやります。
  2. 新型コロナウイルス対策で始めのうちは Web 教材を提示しますが、対面授業に戻ったら板書でやります。 写メで撮って楽をしてはいけません。 ノートを取るという作業を通じて脳を動かすことが大事です。
  3. 毎回宿題を出します。宿題と試験を合わせて成績を付けます。
  4. オリジナルのツールでデモをやります。お得な授業です。


グラフ理論の始まり:ケーニヒスベルクの7つの橋渡り

 グラフ理論で扱う「グラフ」とはどんなものか、を理解してもらうために、グラフ理論が生まれたエピソードを紹介します。

 18世紀初め、ロシア、ケーニヒスベルクの町で「7つの橋渡り」という遊びが流行りました。 プルーゲル川の両岸と2つの中洲に架かる7つの橋を丁度1回ずつ渡って散歩できるか、というクイズです。

誰ひとりうまくいきません。もし不可能なら、不可能であることを証明してもらいたい、ということでオイラー先生に HELP が掛かりました。
 オイラー先生は1707年生まれの大数学者。1771年頃に失明するもなお1783年に76歳で没するまで研究を続け、書いた論文は合計5万ページを超えます。
 オイラー先生は
  • 岸や中洲を点
  • 橋を辺
として地図を抽象化することを思い付きました。(面である岸や中洲を点にしてしまうというこの大胆な発想 !!)  するとこんな絵が得られます:

上下の点が岸、左右の点が中州を表しています。ここのところ、よく理解してください。 このようにモノのつながりを表現した図形(と言うか構造)を「グラフ」と呼びます。

 さて、橋渡りのクイズは、このグラフで一筆描きができるか、という問題に言い換えることができます。 そしてオイラー先生は「一筆描きの定理」を証明することによって、橋渡りが不可能であることを証明しました:
定理 連結なグラフでは、出発点に戻る一筆描きができることと、全ての点の次数が偶数であることが同値である。
( ひとつの点に接続している辺の本数を専門用語で「次数」と言います。)
橋渡りのグラフでは4つの点の次数が 5, 3, 3, 3 ですので一筆描きができないことがわかります。

四色定理

 グラフ理論を用いて解決した問題をもうひとつ紹介します。

 色刷りの地図を作る印刷業者たちは、経験的に次の事実を知っていました:
四色定理 どんな地図でも、4色あれば、隣り合う国同士に違う色を塗って塗り分けることができる。
地図の塗り分けは次のようにしてグラフで表現できます。例えば中部地方周辺の地図を考えましょう。
先ず、各都府県にひとつずつ点を描きます。
次に、隣り合う都府県について、その点同士を辺で結びます。すると、「隣り合う」というつながりを表現したグラフができます。
このグラフの点に番号を割り振って、隣り合う点同士の番号が必ず異なるようにします。例えば次のように割り振れば番号は4つで足ります。
この番号を色の番号だと思って各都府県に色を塗れば、地図の塗り分けができます。
 四色問題が学会に提唱されたのは1852年ですが、証明されたのはそれから124年後の1976年。 アッペルとハーケンが「基本的な地図」を約2000個に分類することで解決しました。 コンピュータを用いた証明の魁(さきがけ)でもあります。

フリー素材提供:白地図専門店

グラフ理論の目標

 「7つの橋渡り」や「地図の塗り分け」のように、モノのつながり方に関係する問題を
  • グラフとして表現し、
  • グラフ理論の定理やグラフ・アルゴリズムを用いて解く
ことがグラフ理論の大きな目標のひとつです。

 この授業では次のような問題を扱ってゆきます。
  • 探索 ... データ構造の基本的なアルゴリズム
  • 一筆描き
  • 最短路問題 ... カーナビや 高速道路のルート検索 で必須のアルゴリズム
  • 巡回セールスマン問題 ... 全ての顧客を訪問する最短コースを求める問題
  • 郵便配達員問題 ... 全ての道路を通る最短コースを求める問題
  • 彩色問題 ... 地図の塗り分け、スケジュール調整、レジスタの割り付け等に応用される
  • 平面性の問題 ... 電子回路設計に応用される
  • 連結度 ... ネットワークの安全性に関わる問題
  • ネットワーク・フロー ... ネットワークの通信容量等を測る問題
  • マッチング ... 相性のいいペアを沢山作る問題 (入退院サポートシステムへの応用例)etc.

宿題

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  • 提出期限:こんなご時世ですので、急がなくていいです。
  • 提出方法:スキャンするか写メを撮るかして、shiota@is.kochi-u.ac.jp 宛に送信してください(@は小文字)。 できなければ後日紙で提出しても構いません。 上手く送れない人はメールで連絡してください。
  • 宿題を複数回分まとめて提出されると見落とす危険があります。 多少面倒でも1回分ずつ送信してください。 ... 現在3科目担当していて合計130名程度の受講生がおります。 課題チェックの作業量をちょっと想像してみてください。

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