塩田研究室の研究分野

数論

 数の美しさを愛でる学問である。 たとえば 1729 を取り上げてみよう。
  1. 日々何十個という公式を生み出す魔術師のようなインドの数学者ラマヌジャンは、 ケンブリッジに招聘されたものの病を得て療養所に入っていた。 それを見舞ったハーディが、
    「自分の乗ってきたタクシーのナンバーは 1729 というつまらない数だった」
    と言ったのに対し、ラマヌジャンは
    1729 = 13 + 123 = 93 + 103
    と2つの正の3乗数の和に書く方法が2通りある最小の自然数である、と語った。 タクシー数と呼ばれる所以である。
  2. 公開鍵暗号の分野では、 素数判定のフェルマーテストをすり抜けてしまう合成数として「カーマイケル数」という厄介者がいる。 1729 は 3 番目に小さなカーマイケル数である。
  3. 等差数列を成す 3 つの素数の積である : 1729 = 7 × 13 × 19
  4. 10進数としての桁の数を足した数 x と、x の桁を逆にした数 y の積が元の数になるような最大の自然数である : x = 1 + 7 + 2 + 9 = 19,   y = 91,   19 × 91 = 1729 [オンライン整数列大辞典]
  5. 塩田は博士論文で行った保型形式の実験中に 「階数4の非同値な整数係数二次形式で同じテータ級数を持つ例」を発見した。 これとは独立に同様な例を発見した A. Schiemann は、 よりシステマティックな検索により、 そのような二次形式の行列式の最小のものは 1729 であることも突き止めている。 [R.Scharlau, Martin Kneser's Work on Quadratic Forms and Algebraic Groups, p.14, 下から4行目から]

たった一つの数にもこれだけの顔がある。 こちらが見る眼を養えば養うほど、数はその輝きを増すものである。

 法演算、有限体、群論、代数体、楕円曲線など、 数百年の時を経てうっかり世の中の役に立ってしまったものも沢山あるが、 まずは純粋に数の美しさを愛でることが大切である。 公開鍵暗号のように素数を使い捨てにする研究などに、本当は手を染めてはいけないのかもしれない。

楕円曲線

 暗号関係者には   y2 = x3 + a x + b   という式で知られている代数曲線。 代数曲線の中では直線、2次曲線(円)に次いで簡単なものとは言え、 群構造、ヴェイユ対(つい)、虚数乗法、など実に多彩な構造を持っている。 複素数体の上では、図形としては円環面、群構造は円( = R/Z )の直積というシンプルな代物だが、 定義体を数体や有限体にすると俄然面白さが増してくる。
 保型形式の整数論においては随所にその姿を現し、 また暗号理論においても上述の構造を活かした幅広い応用を持つ。 塩田研究室ではその両面で楕円曲線との長い付き合いが続いている。

計算代数

 整数関数、多倍精度整数、法演算、有限体、多項式、行列、楕円曲線等の計算を 計算機上で実現するためのアルゴリズムを扱う学問。
 塩田研究室では、保型形式の研究においては例えば数百次の整数係数行列を扱っており、 その固有多項式の係数は10進数で数百桁に及ぶ(データの例)。 暗号理論においても常に実用レベルの数値を扱い、例えば RSA 暗号の鍵であれば 1024ビット程度の整数を用いている。 それらを実際に計算するプログラムを作成するためには欠かせない学問分野である。

公開鍵暗号

 暗号化鍵を一般に公開し、秘密の復号化鍵で復号を行う暗号方式を公開鍵暗号と言い、 不特定多数がネット上で通信を行う現代では不可欠な技術である。 RSA暗号、ElGamal暗号、楕円曲線暗号など、実用になっているものは全て整数論に基づいていおり、 整数論、計算代数、計算量理論等、広範な知識を必要とする研究分野である。

保型形式の整数論

 ここでは一変数の保型形式を紹介する。複素上半平面
H = { τ ∈ C | Im(τ) > 0 }
上の解析関数であって、モジュラー群 Γ の作用に関して一定の変換則を満たすものをモジュラー形式(一変数の保型形式)と言う。 商空間 Γ\H のコンパクト化 (Γ\H)* はリーマン面の構造を持ち、 モジュラー形式はそのリーマン面上の関数や微分形式として捉えることができる。 このとき、 Γ や (Γ\H)* の持つ整数構造が、モジュラー形式や、それに付随する L-関数に反映する。 それらの整数構造を研究する分野である。  特に合同部分群 Γ= Γ0(N) に関する重さ2のモジュラー形式は有理数体上の楕円曲線を与える(そのようにして得られる楕円曲線を「モジュラーである」と言う)。  志村五郎先生は 「有理数体上の楕円曲線は全てモジュラーである」 という予想を立てられた(「志村予想」)。 この予想は、情報科学コースの創設者である長沼英久先生が指導教官の土井公二先生と共に創られた「土井-長沼膨張写像」の理論がきっかけとなって ワイルズによって証明され、その帰結として350年間未解決だった難問「フェルマ予想」も肯定的に解決された。この分野の1990年代のできごとである。

誤り訂正符号

 ディジタル信号に生じるビット誤りを一定の範囲で自動訂正できるように符号設計する理論。 誤り訂正能力、冗長率、符号化速度、復号化速度、装置のコスト等、 状況に応じて優先すべき性能を見定め適切な符号を設計しなければならない。 その設計には、有限体、線形代数、多項式環、有限幾何、組合せ論などさまざまな数理構造が利用されている。

アルゴリズム的グラフ理論

 グラフ理論は鈴木先生が専門家であって、塩田は、研究分野と言うよりは、グラフ・アルゴリズムを実際にプログラミングして楽しませて頂いていると言った方が正しい。

使ったことのあるプログラム言語

  • C ... 就職した年に覚えた。(学生の頃はまだ出始めだった。)
  • C++ ... 2015年に勉強した。
  • Fortran ... 学部生の頃授業で習って、円周率100桁の計算などをやった。
  • Java ... BigInteger が使いたくて覚えた。
  • PASCAL ... 博士論文の計算はこれ。
  • Precision Basic ... 修士論文の計算はこれ。精度付き計算をしてくれる Basic だったが、今は無い。
  • python ... 菊地先生のお勧めで使い始め、整数論に暗号理論に、実に重宝している。
  • Visual Basic ... グラフ描画ツールはこれで作った。

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