清音・濁音   ― 塩田研一覚書帳 ―
「塩田」は「しおた」とも「しおだ」とも読みます。
私は「しおた」の方です。
「田」の字を清音・濁音の両方で読む苗字は他に「植田さん」、「川田さん」、「武田さん」、「中田さん」などが思いつきますが、それほど多くありません。
そんな中、小学校のときは同じクラスに「しおだ」君がいました。
名前の方もわたしが「けんいち」で彼は「きいち君」。
ややこしくていけません。
数学者にも「しおだ」先生がおられて「ご親戚ですか」と聞かれることがしばしばありました。
高校の同級生には「賀藤」と書いて「かとう」と読む子がいました。
「賀」の字は日頃「年賀状」とか「賀正」とか「が」と読む単語しかお目にかからなかったので「がとう君」かと思いきや「かとう君」でした。
その「賀」の字、忍者の里として有名な滋賀県の甲賀も清音で「こうか」と読みます。
伊賀・甲賀と対で呼ばれることが多いので伊賀につられて濁音で呼ばれてしまいますが、
鹿深(かふか)氏という古代の豪族に由来すると言われ、甲賀郡甲賀町の時代から今の甲賀市も全て清音です。
... なんてことを知っていると、映画も、時代劇も、時代小説も、「こうが」と発音された瞬間に醒めてしまいます。
困ったものです。
同じ近江の国では、戦国武将の浅井長政が逆に濁音の「あざい」です。
淀君のお父さん。豊臣秀頼のおじいさん。
居城の小谷城の読みも「こたに」ではなくて「おだに」と濁音です。
米原の読みは清濁が変わってしまいました。
もともとは清音の「まいはら」だったのですが、新幹線の駅などが濁音で知名度を上げてしまったがために、
米原町から米原市になるときに市名は濁音に変え、中心地にだけ清音が残されています。
インターチェンジ名に至っては、一旦町名に合わせて清音に直したのに、市名に合わせてまた濁音に変えたという経緯があります。
高知空港のある南国市は清音の「なんこく」。
ただし、南国市は1959年に発足した際に投票で決まった市名で、歴史がある訳ではないようです。
とは言えサービスエリアは市名を無視して濁音で名付けられていて、
米原といい、南国といい、中央の人のすることは思いやりが無い気が致しますね。
カタカナ語では、タイガース、ニュース、ブルース、イーグルスなどは、本当は濁音のところ、発音しにくいらしくて清音になっています。
逆に close-up を日本人はクロウズ・アップと読んでしまいますが、正しくはクロウス・アップです。
濁音の close が「閉める」意味、
清音の close は「そばに」、「近づいて」という意味です。
Carpenters の最初の全米 No.1 曲 Close to You も清音のクロウス・トゥ・ユー。「あなたのそばに」という意味ですから。
あなたが近くに来ると
どうしていつも 小鳥たちが現れるの
私と同じ あなたのそばにいたいから
ちなみに Close to You の作者は Raindrops Keep Fallin' On My Head (雨にぬれても) でも有名な Burt Bacharach と Hal David。
オリジナルはもっとテンポが遅かったのを Carpentaers は思い切ってテンポを速くして大ヒットにつなげたということです。
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