日本の母はパパだった   ― 塩田研一覚書帳 ―
京大の教養に「言学」という授業がありました。
「言語学」ではなく「言学」。
単に言語学だけの講義ではなく、民俗学の内容なども盛り込まれ、日本の文化を言語の面から捉える興味深い講義でした。
その中からいくつかご紹介を。
は行の音
は行は現在 h で発音していますが、中世には f、その前は p の音だったそうです。
中世では西欧人の作った日本語辞書、古代では万葉仮名が手がかりとなってそういうことがわかるのだそうですが、
傍証としてこんなことも挙げられます:
- 赤ん坊に関わる単語には発音の易しい子音が使われる。
まま、まんま、ぱぱ、ちち、など世界中で同じ単語が使われている。
ところが h は非常に発音の難しい子音で、現にフランス語では大人も使っていない。
日本だけが例外的に haha と発音していたと考えるより、papa だったと考える方が合理的である。
- 「光」は「ピカリ」と発音する方がふさわしい。
- ヒヨドリはやかましく「ピヨピヨ」と鳴く鳥なので、「ピヨドリ」だったのではないか。
ということから、日本の母は古代は「パパ」と発音されていないのではないかということです。
音韻転換
日本語では、発音のし易さの為に音の順序が変わってしまった単語がいくつもあります。
- 「あたらしい」は元々「あらたしい」でした。
「新た」は「あらた」と読みますし、新しいものは荒い、という発想があるので「あら」たしいなのだそうです。
(ちなみに、荒魂(あらたま)神社や若宮(わかみや)神社などと呼ばれる神社がありますが、
これらは御霊信仰に基づいて、まだ新しくて荒々しい霊を鎮めるための神社です。)
- 「だらしない」は元は「しだらない」。
「しだら」は「ふしだら」の「しだら」で、好ましくない行い、といった意味。
「ない」は「無い」ではなくて形容詞の語尾らしいです。
- 秋葉原は字の通り「あきばはら」と読んでいたのが、発音しにくかったのか「は」と「ば」が逆転したもの。
ちなみに秋葉神社は火伏せの神様で、高知県では2月の秋葉祭りが有名です。
その他
- 爪に爪無し、瓜に爪有り。「爪」の字にはツメが無いけど「瓜」にはあるよ、逆さまで面白いでしょ、という覚え方。
他にも思い出したら付け加えてゆきます。
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