みそつ の おじぞうさん


 車で走っていて偶然出会うお祭りというのが、時々、あります。 どんな本にも載っていなかった、初めて知るお祭り。 これはそういうお祭りのひとつです。

 正月3日の朝に蒲生町で山の神を観て、 次の取材地に向けて走っていた時のこと。 交差点を曲がると男の子が何人か集まっているのが目に入りました。

 「何してるん?」
 「お地蔵さん!」

村の一軒一軒から大晦日に鏡餅を集めて地蔵堂にお供えし、 今日はそれを下げる日なんだそうです。 二つのお餅のうち一つだけを返して、 残ったお餅は子供達で分けて持って帰ります。

 「これっ、何? 芸能人デビュー?」

とおどけている中学2年生が大将さん。 どの家に返しに行くのか大将さんに指示をもらって チビちゃん達が村を駆け回ります。

 「おじぞうさん の おもち を かえしに きました」

村の名前は「三十坪」。

 「さんじゅっつぼ、って読むん?」
 「み・そ・つ!」
 お餅を集める日に再び村を訪れました。 地蔵堂の前には、雪をかき分けて門松も奇麗に出来上がっています。

 「おじぞうさん の おもち を もらいに きました」

回っているのは男の子だけでなく、女の子の組もあります。 実は地蔵堂は二つあって、南側の地蔵堂は女の子のもの。 女の子は2日にお餅を返すので分からなかったのでした。

 なついてくれているダイちゃん。
 「おっちゃん、今日、家族になりっ」

それはちょっと、よく、考えないとね。

 三十坪は日野川添いの村。 下流には林という村があって、そこでも 正月に子供達が「やっしゃりさん」という仏像を背負って 村を回る行事があります。 日野川を流れて村に辿り着いたという伝説を持つやっしゃりさんの、 年に一度のお披露目です。

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