Menger の定理
最大フロー・最小カット定理は
「どれだけたくさんデータを送れるか」と「どれだけ小さいカットでブロックできるか」が同じ、
という定理でした。
この現象を重みの無いグラフで考えた Menger の定理を紹介します。まず次の問を考えます。
問 $G=(V,E)$ を連結グラフ、$v$, $w$ $\in V$ とするとき、
- 辺を共有しない(辺素な、と言います) $v$-$w$ 道は最大で何本あるか。
- 中間点を共有しない(点素な、と言います) $v$-$w$ 道は最大で何本あるか。
- 有向グラフではどうか。
Ex.13 次のグラフで
問 を考えてみましょう。
(黒い記号が頂点、緑の記号が辺です。)
たまたま (1) も (2) も答えは 2 本で、例えば次の図の赤い道と青い道が取れます。
次はブロックする側の定義です。
Def.14
- 辺の部分集合 $F \subseteq E$ が「$vw$-非連結化集合」である、とは、任意の $v$-$w$ 道が $F$ の辺を含むこと。
- 頂点の部分集合 $W \subseteq V$ が「$vw$-分離集合」である、とは、任意の $v$-$w$ 道が $W$ の頂点を中間点として含むこと。
言い換えると
- $\Leftrightarrow$ $G-F$ には $v$-$w$ 道が無いこと。
- $\Leftrightarrow$ $G-W$ には $v$-$w$ 道が無いこと。
Ex.13 のグラフ
では、例えば $\{\,h,\,i,\,j,\,k\}$, $\{\,h,\,f,\,g\,\}$, $\{\,g,\,\ell\,\}$ はいずれも $vw$-非連結化集合です。
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$G-\{\,h,\,i,\,j,\,k\}$ | |
$G-\{\,h,\,f,\,g\,\}$ | |
$G-\{\,g,\,\ell\,\}$ |
また、$\{\,s,\,t,\,u\,\}$ や $\{\,u,\,x\,\}$ は $vw$-分離集合です。
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$G-\{\,s,\,t,\,u\,\}$ | |
$G-\{\,u,\,x\,\}$ |
この例では、$vw$-非連結化集合の辺数の最小値も、
$vw$-分離集合の頂点数の最小値も 2 で
問 の答えに一致していますが、
これが一般にも成り立ちます。
Th.15(辺形の Menger の定理) 辺素な $v$-$w$ 道の最大数は、$vw$-非連結化集合の辺数の最小値に等しい。
Th.16(Menger の定理) 点素な $v$-$w$ 道の最大数は、$vw$-分離集合の頂点数の最小値に等しい。
Th.17(整数性定理) Th.15 は有向グラフでも(辺を弧に読み替えて)成り立つ。
証明 Th.17 は全ての弧の容量が 1 の場合の最大フロー・最小カット定理です。
Th.15 は全ての辺 $e=xy$ を 2 本の逆向きの弧 $xy$, $yx$ に置き換えれば
Th.17 に帰着します。
Th.16 も
Th.17 の応用として証明されます(Bondy-Murty 11章を参照)。
今日は最大フロー・最小カット定理から先に証明しましたが、
歴史的には 1927 年にまず Menger が Menger の定理を証明し、
最大フロー・最小カット定理と辺形の Menger の定理は 1956 年に Ford と Fulkerson によって証明されました。