組合せとグラフの理論(塩田) 2020年度 第10回
今日のテーマ
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平面グラフには、それと対をなす「双対グラフ」が存在し、お互いが表と裏の関係になっています。
その描き方と性質を勉強しましょう。
1. 双対グラフの定義
まずは定義から。
Def.1 平面グラフ $G=(V,E)$ に対し、$\newcommand{\as}{^{\ast}}$
その双対グラフ(幾何学的双対グラフ)$G\as=(V\as, E\as)$ を次のように定める。
- $G\as$ の頂点は $G$ の面のことである。
- $G$ の面 $\alpha$ と $\beta$ が辺を共有するとき、
$G\as$ の頂点として $\alpha$ と $\beta$ を隣接させる。
何のこっちゃ、と思うかもしれませんが、描き方を聴くと意味が分かります。
描き方
- $G$ の各面に点をひとつずつ打つ
- 隣り合う面に打った点同士を、境界辺をまたぐ辺で結ぶ。
※ $G$ の辺が交差していないことが前提です。
ここ大事!
Ex.2 正四面体グラフの双対グラフ(赤いグラフが双対グラフです。)
→
→
グラフの外側もひとつの面ですから忘れないように。
やってみよう Ex.2 をまねて立方体グラフの双対グラフを描いてみましょう。
やってみよう 車輪グラフ $W_6$ の双対グラフも描いてみましょう。
Rem.3 $G \cong H$ であっても、
平面グラフとしての描画が異なると $G\as \not\cong H\as$ となることがある。(今日の宿題を参照。)
Rem.4 $G$ が単純グラフであっても、$G\as$ にはループや多重辺ができることがある。
Th.5
- $G$ が連結な平面グラフであれば $G\as$ もそうである。
- $G$, $G\as$ の頂点数、辺数、面数をそれぞれ $n$, $n\as$, $m$, $m\as$, $f$, $f\as$ とすると、
$n\as = f$, $\quad m\as = m$, $\quad f\as = n$.
証明 (1) $G\as$ が平面グラフになることは
描き方よりわかります。
$G\as$ の連結性は「 $G$ の面が順番にたどれる」ということです。
(2) $n\as = f$ であることは
Def.1 (1) より。
$m\as = m$ であることは
描き方の (2) より。
すると、 $G$, $G\as$ についてオイラーの公式が成り立つことから
$n- m + f = 2 = n\as - m\as + f\as = f - m + f\as$
よって $f\as = n$. (証明終)
双対グラフの双対グラフは自分自身に戻ります。
Th.6 $G$ が連結な平面グラフであれば $(G\as)\as \cong G$.
証明 図では双対グラフに赤色を使って述べていきます。
- $G\as$ の面 $\alpha\as$ の境界辺の 1 つを $e\as$、
$e\as$ がまたいでいる $G$ の辺を $e=uv$ とすると、
$u$, $v$ のどちらか一方は面 $\alpha\as$ の中にあります。
- つまり $G\as$ の各面 $\alpha\as$ には $G$ の頂点 $u$ が 1 つ以上あります。
- 2° の対応を $\varphi:\alpha\as \mapsto u$ と表すと、
$f\as=n$ ですから $\varphi$ は一対一対応であることがわかります。
- 3° の対応によって $\varphi(\alpha\as)=u$, $\varphi(\beta\as)=v$ であるとします。
このとき、
$u$ と $v$ が $G$ で隣接していること
$\Leftrightarrow$ $\ e=uv$ が $G$ の辺であること
$\Leftrightarrow$ $\ e\as$ が $\alpha\as$ と $\beta\as$ の境界であること
$\Leftrightarrow$ $\ \alpha\as$ と $\beta\as$ は $(G\as)\as$ の頂点として隣接すること
|
となるので、$\varphi$ は $(G\as)\as$ と $G$ の隣接関係を写し合います。(証明終)
2. プラトングラフの双対性
プラトングラフの双対グラフは次のように描くことができます。
- 立体として考える(球面上に描くことと本質的に同じ)
- 各面の中心に点をひとつずつ打つ
- 隣り合った面に打った点同士の間に辺を描く
するとこんな絵になります。
正多面体の双対グラフは再び正多面体グラフになっていますが、これは描き方から必然的にそうなるのです。定理としてまとめると、
Th.7
- 正四面体グラフの双対グラフは正四面体グラフである。(自己双対、と言います。)
- 立方体グラフと正八面体グラフは互いに双対である。
- 正十二面体グラフと正二十面体グラフは互いに双対である。
前回の頂点数、辺数、面数の表
|
$n$ |
$m$ |
$f$ |
$n-m+f$ |
正四面体グラフ | 4 | 6 | 4 | 2 |
立方体グラフ | 8 | 12 | 6 | 2 |
正八面体グラフ | 6 | 12 | 8 | 2 |
正十二面体グラフ | 20 | 30 | 12 | 2 |
正二十面体グラフ | 12 | 30 | 20 | 2 |
が対称的になっているのはこの定理が理由です。
3. 閉路とカットセットの双対性
$G$ を連結な平面グラフ、$G\as$ をその双対グラフとし、辺の一対一対応
$e$ $\longleftrightarrow$ $e\as$
によって $G$, $G\as$ の辺の部分集合 $C$, $C\as$ が対応しているとします。
$C$ $\longleftrightarrow$ $C\as$
このとき
Th.8
- $C$ が $G$ のカットセットであること $\ \Leftrightarrow\ $ $C\as$ が $G\as$ の閉路であること。
- $C$ が $G$ の閉路であること $\ \Leftrightarrow\ $ $C\as$ が $G\as$ のカットセットであること。
証明
(1) の $\Rightarrow$ )
$C$ がカットセットならば $G-C$ の頂点 ( $=$ $G\as$ の面 ) は 2 つのグループに分かれますから、
$C\as$ はそのグループ同士の境界線を含みます。
カットセットの極小性から $C\as$ は丁度その境界線に一致し、境界線は閉路ですので $C\as$ は閉路になります。
例えば正十二面体グラフ $G$ とその双対グラフ $G\as$ の場合、
図の点線部分のようにカットセット $C$ を取ると、
対応する $C\as$ は図の赤い辺たちとなり、閉路になります。
(2) の $\Rightarrow$ )
$C$ が閉路なら $C$ の内側にも外側にも面( $=$ $G\as$ の頂点 ) があるので、
$G\as-C\as$ は 2 つの連結成分に分かれます。
$C\as$ の辺を 1 本でも元へ戻すと連結になりますので $C\as$ はカットセットです。
(1) と同じグラフ $G$ で図の青い部分のように閉路 $C$ を取ると、
赤い点線の部分が $C\as$ となり、$G\as-C\as$ を 2 つの連結成分に分けるカットセットとなっています。
(1), (2) の $\Leftarrow$ ) は $G$ と $G\as$ を逆にすると言えます。(証明終)
4. 双対グラフの使いどころ
双対グラフは、プラトングラフの例のように理論的に興味深いという他に、例えば次のような応用を持ちます。
Ex.9 第1回で紹介しました四色問題は面を塗り分ける問題でした。
面を塗り分けることはそのままでは表現しにくいのですが、
双対グラフの頂点を塗り分ける(点彩色と言います)ことに言い換えると処理し易くなります。
Ex.10 カットセットはコンピュータネットワークの強度(辺連結度)にかかわる重要な概念ですが、
扱いにくいものです。
もしネットワークが平面的であれば、双対グラフの閉路に読み替えられて、
第7回に扱った閉路部分空間で制御することが可能となります。
宿題
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