応用数学 第9回 (2) 三角関数のなす直交関数系
周期関数
三角関数の顕著な性質は、
周期をもつ、ということです。
Def.1 関数 $f(x)$ が周期 $2\pi$ を持つ、とは、全ての $x$ について
$f(x+2\pi)=f(x)$
が成り立つこと。
周期関数を全体として眺めると
Th.2 (1) 周期 $2\pi$ を持つ連続関数の集合 $\mathcal{V}$ はベクトル空間を成す。
- $\mathcal{V}$ には
$\newcommand{\ip}[2]{\langle\,#1,#2\,\rangle}$
$\dps{\ip{f}{g}=\int_{-\pi}^{\pi}fg\, dx}$
によって内積を定義できる。
証明
(1) は
- $(f+g)(x+2\pi)=f(x+2\pi)+g(x+2\pi)=f(x)+g(x)=(f+g)(x)$,
- $(cf)(x+2\pi)=cf(x+2\pi)=cf(x)=(cf)(x)$
より。
(2) は内積の条件:双線形性、正値性、非退化、対称性を確かめます。
双線形性 とは
- $\ip{f}{g+h}=\ip{f}{g}+\ip{f}{h}$
- $\ip{f+g}{h}=\ip{f}{h}+\ip{g}{h}$
- $\ip{cf}{g}=\ip{f}{cg}=c\ip{f}{g}$
が成り立つことですが、これは積分の双線形性から従います。
正値性 は $\dps{\ip{f}{f}=\int_{-\pi}^{\pi}f(x)^2dx \geqq 0}$ より。
非退化 $\ip{f}{f}=0$ であれば関数として $f(x)^2=0$ すなわち $f(x)=0$ となります。
対称性 $\ip{f}{g}=\ip{g}{f}$ は定義から直ちに従います。(証明終)
Rem.3 内積が定義できると「大きさ」や「角度」を定義することができるのは普通のベクトルと同様です:
$\dps{\left|\,f\,\right|=\sqrt{\ip{f}{f}}}$,
$\qquad\dps{\cos\theta=\frac{\ip{f}{g}}{\left|\,f\,\right|\times\left|\,g\,\right|}}$
三角関数のなす直交関数系
さて、次の関数系を考えましょう:
$\dps{\mathscr{S}=\left\{
\begin{array}{cccccc}
1,& \cos(x),&\cos(2x),&\cos(3x),&\cdots\ \\
& \sin(x),&\sin(2x),&\sin(3x),&\cdots\ \\
\end{array}
\right\}
}$
( $1$ だけ不揃いに見えますが $1=\cos(0x)$ も三角関数のひとつです。)
Th.4 (1) $\mathscr{S}$ に属する関数たちは全て周期 $2\pi$ を持つ ( すなわち $\mathcal{V}$ の要素である )。
- $\mathscr{S}$ に属する関数たちは、内積 $\ip{\ }{\ }$ に関して互いに直交している:
- $\ip{f}{g}=0$ $\forall f,g \in \mathscr{S}$
また、
- $\ip{1}{1}=2\pi$
- $\ip{\cos(nx)}{\cos(nx)}=\ip{\sin(nx)}{\sin(nx)}=\pi$ $\forall n \geqq 1$
(2) の意味で $\mathscr{S}$ を 「直交関数系」と言います。
証明 (2) は積和の公式を使って
\begin{align}
\ip{\cos(mx)}{\sin(nx)}
&=\int_{-\pi}^{\pi}\cos(mx)\sin(nx)dx \\
&=\int_{-\pi}^{\pi}\frac{1}{2}\left(\sin((m+n)x)-\sin((m-n)x)\right)dx=0 \\
\end{align}
のように示せます。(証明終)
$\mathscr{S}$ の三角関数たちは互いに直交していますので、
$\mathcal{V}$ の中に無限個の直交軸を作っている、
と考えることができます。そこで、
周期 $2\pi$ を持つ連続関数はこの三角関数たちの無限和で書けるのではないか
と考えた人たちがいた訳です。